「支払いは何とか回っている」——その感覚だけで経営していると、現金が足りなくなる日は前日まで見えません。本コラムでは、①日繰り表(日単位で現金残高の推移を並べた表)の5列の型、②作る前に集める5点セット、③Excelで30分の作成6ステップ、④作った表が正しいかを検算する方法、⑤資金の谷が見えたときの打ち手の順番をお伝えします。読み終えたときに、自社の現金が60〜90日先までいくらになるかを自分で描ける状態を目指します。

日繰り表は「5列」から始めれば十分です

結論から申し上げます。日繰り表は日付・前日残高・入金・出金・当日残高の5列で成立します。凝った様式は不要で、Excelの1シートで足ります。

日繰り表とは

1日単位で「その日いくら入り、いくら出て、いくら残るか」を並べた表です。目的は一つ、資金ショート(支払日に現金が足りなくなること)が起きる日を特定することです。見栄えより、通帳と一致しているかが大事です。

月次資金繰り表・13週資金繰り表との使い分け

3つは競合しません。時間軸の役割分担です。

表1:3つの資金繰り表の役割

種類単位見る範囲分かること
日繰り表1日60〜90日先何月何日に払えなくなるか
13週資金繰り表1週約3カ月先資金の谷がいつ来るか
月次資金繰り表1カ月6〜12カ月先資金が続く体質かどうか
3つの資金繰り表の粒度と範囲 種類 / 粒度 日繰り表 90日 / 日単位 ショート日が特定できる 13週資金繰り表 3カ月 / 週単位 谷が来る週が分かる 月次資金繰り表 1年 / 月単位 資金が続く体質か 今日 3カ月 1年
図1:粒度が細かいほど「いつ払えなくなるか」が特定できる

月末残高だけを追う月次表では、25日の給与と月末の支払で月中に生じる谷が消えます。作成範囲の目安は「実績の直近1カ月+予定60〜90日」。半年先まで日単位で作っても精度が出ず、更新が続きません。

自社への問い:来月の支払日のうち、残高が最も薄くなるのは何日ですか。

会社が止まるのは、赤字だからではなく支払日に現金がないからです

結論として、利益と現金は別物です。売上が伸びている会社ほど危険は増します。この構造は売上はあるのに利益が残らない5つの理由で詳しく解説しています。

そのA社(金属加工業)は、現金化までの日数が75日(在庫45日+売掛回収60日−買掛支払30日)ありました。増収した3億円を回すのに必要な追加運転資金は約6,164千円で、その期の営業利益4,800千円を上回ります。利益は出ているのに預金が減るのはこの構造です。

加えて月次試算表は、締めてから出てくるまでに2〜4週間かかります。試算表で異変に気づいた時点では、谷はすでに目前です。

自社への問い:入金より先に支払が来る取引が、主力の中にありますか。

精度の9割は「集める5点セット」で決まります

結論、様式に悩む時間より材料を揃える時間に投資してください。とくに借入返済・税金・社会保険料は金額と日付が動かせないため、資金ショートの主因になりやすい項目です。

表2:作成前に集める5点セット

#集めるもの入手元
1全口座の残高と入出金明細(直近3カ月)通帳・ネットバンキング
2売掛金一覧と回収サイト(請求から入金までの期間)会計ソフト・請求書控え
3買掛金・外注費の支払条件(手形・でんさいの決済日を含む)発注書・支払予定表
4借入金返済予定表(全金融機関分・元金と利息)各金融機関
5税金・社会保険料の納付スケジュール顧問税理士・納付書

抜けやすいのは、賞与・労働保険の年度更新・固定資産税・消費税の中間納付など年に数回しか出てこない支出です。ここを落とすと日繰り表は必ず楽観に振れます。

自社への問い:上記5点のうち、いますぐ手元に出せるものは何点ですか。

作成6ステップ(Excelで30分)

結論、次の順番を守れば初回でも30分で形になります。順番を変えないことが重要です。

  1. 期間と対象口座を決める:まず主要な決済口座に絞る。全口座合算は2回目からで十分です。
  2. 開始残高を通帳と一致させる:初日の前日残高を実残高に合わせる。ここがずれると以降すべて狂います
  3. 出金予定を先に埋める:給与、家賃、借入返済、税金・社保など動かせないものから。出金を先に埋めるのが楽観を防ぐコツです。
  4. 入金予定を3区分で入れる:下表の区分を付け、「未確定」は残高計算に含めない
  5. 残高を計算して色をつける:マイナスの日は赤、自社で決めた安全残高を下回る日は黄。
  6. 検算する:全行で「前日残高+入金−出金=当日残高」が合うか、実績最終日の残高が通帳と一致するかを確認。

表3:入金予定の3区分

区分定義扱い
確定請求済みで入金日が決まっている残高に計上
高確度継続取引の通常サイト回収残高に計上(区分を明示)
未確定見込み案件、計画上の売上残高に含めず参考行で別掲
未確定入金を含めた残高と含めない残高 0 残高 ここで資金ショート 確定+高確度のみ(実態) 未確定を含む(願望) 時間 →
図2:未確定入金を残高に入れると、ショートの日が見えなくなる

未確定を残高に入れた日繰り表は、資金繰り表ではなく願望のリストです。別掲すれば「未確定頼みの資金繰りになっていないか」も点検できます。

自社への問い:直近3カ月、見込み入金は予定どおりの日に入りましたか。

完成形はこの1枚(記入例)

結論、下表の1枚が出来上がれば十分です。B社(食品加工業・従業員28名・年商360,000千円)の8月下旬2週間、単位は千円です。

表4:B社の日繰り表(抜粋)

日付前日残高入金出金当日残高区分摘要
8/2018,0004,200022,200実績売上入金
8/2122,20001,80020,400実績経費引落
8/2420,4001,500021,900確定売上入金
8/2521,900012,6009,300確定給与
8/269,30002,4006,900確定社会保険料
8/276,90002,1004,800確定借入返済3行分
8/284,8006,800011,600高確度売上入金(通常サイト)
8/3111,6003,20014,900▲100確定仕入・外注支払、家賃

読み取れることは2つです。8月31日に100千円足りないこと。そして8月28日の6,800千円(高確度)が数日ずれれば、不足は6,900千円に膨らむことです。100千円なら、2週間前に分かっていれば入金前倒しの依頼で解決します。日繰り表の価値は金額の大きさではなく、気づく時期にあります

安全残高の決め方

ゼロを割る前に動くため、最低ラインを決めます。目安は月間出金総額の3分の1〜1カ月分。それが遠い場合は「翌月の給与+社保+借入返済を払える額」を最低線に。B社は10,000千円と設定したため、8月26日以降が黄色の警戒域です。

自社への問い:自社の安全残高は何千円ですか。今日の残高は上回っていますか。

よくある失敗は決まっています——精度チェック10問

結論、日繰り表が外れる原因は作成技術ではなく、下の10項目のどれかです。YESが多いほど、その表は楽観に振れています。

表5:日繰り表の精度チェックリスト

#質問YES/NO
1開始残高を通帳の実残高と突合していない
2見込み案件の入金を残高に含めている
3口座間の資金移動を入金・出金の両方に計上している
4賞与・労働保険・固定資産税など年数回の支出が入っていない
5手形・でんさいの決済日を把握していない
6消費税・法人税の納付予定が入っていない
7入金日を「月末」で置き、実際の着金日と違う
8銀行休業日に入出金を置いている
9作成は1回だけで、その後更新していない
10残高がマイナスになる日に色や印がついていない

判定:0〜2個は実用レベル(週次更新の習慣化へ)。3〜5個は楽観に振れています(該当項目を修正して再計算)。6個以上は判断材料になりません(開始残高と3区分から作り直し)。

自社への問い:YESが最も多かったのは、どの番号でしたか。

運用は「週1回15分」、谷が見えたら打ち手の順番を守る

結論、日繰り表は作った瞬間から古くなります。毎週決まった曜日に15分、実績と予定の境界日を1週間ずらすだけの更新で維持できます。

谷が見えたときの打ち手は、この順番です。①入金を早める(請求の即日発行、締め日の変更依頼、前受金の交渉)→②出金を遅らせる(支払条件の見直し、設備投資や採用の時期をずらす)→③調達する(金融機関への相談、既存借入の条件変更=リスケジュール)。

資金の谷が見えたときの打ち手の順番 ① 入金を早める 請求の即日発行・前受金 ② 出金を遅らせる 支払条件・投資時期の調整 ③ 調達する 金融機関へ相談・条件変更 谷の2〜3カ月前 =銀行相談の分岐点 社内でできることから着手 →
図3:③から入ると交渉が不利になる。順番を守る

③から入ると、社内でできる打ち手を検討していないと見られ、交渉が不利になります。金融機関への相談は谷の2〜3カ月前が分岐点で、前日に駆け込んでも選択肢は残りません。日繰り表を持参すれば、感覚ではなく日付と金額で話ができます。

⚠️ 借入の条件変更、支払条件の変更交渉、納税猶予の申請には法務・税務の論点が伴い、個別事情で結論が変わります。顧問税理士・弁護士・金融機関に必ずご確認のうえ判断してください。本コラムは一般的な情報提供です。

自社への問い:いま見えている資金の谷まで、あと何週ありますか。

まとめ|日繰り表は「予測」ではなく「経営判断の期限表」

  • 日繰り表は日付・前日残高・入金・出金・当日残高の5列で足ります。様式より、通帳と一致していることが重要です。
  • 精度を決めるのは入力データです。借入返済・税金・社会保険料を先に埋め、見込み入金は残高に含めない
  • 谷が見えたら「入金を早める→出金を遅らせる→調達する」の順に。金融機関への相談は谷の2〜3カ月前が分岐点です。

日繰り表の効用は、資金が増えることではなく、判断の締切が何月何日かが分かることです。

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日繰り表は、作り方より「何を確定とし、何を未確定として外すか」の線引きで精度が決まります。この線引きは、自社の中だけではどうしても甘くなります。

当事務所では中小企業診断士による初回無料相談を承っております。通帳(直近3カ月)・借入金返済予定表・決算書2期分をお持ちいただければ、その場で日繰り表の骨格を作り、資金の谷がいつ来るかの見立てをお伝えします。すでに作ったが精度に不安がある、という段階でもお気軽にご相談ください。

通帳と返済予定表があれば、資金の谷を一緒に描けます

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