「売上は過去最高。なのに預金残高が増えない」——これは年商が数億円規模に達したころから起こりやすい問題です。取引先や品目、人員が増えるほど利益が漏れている場所が見えなくなるためで、原因は売上不足ではありません。本コラムでは、①まず見るべき3つの数字、②利益が消える5つの穴、③自社を判定する10問チェックリスト、④90日で着手する順番をお伝えします。数値例は製造業を用いますが、考え方は卸売・建設・サービス業でも同じです。参考になれば幸いです。

利益が残らない原因は、ほぼ「5つの穴」のどこかにある

結論から申し上げます。原因は売上の量ではなく利益構造にあり、その穴は実務上ほぼ5カ所に集約されます。①売上構成の劣化、②値付けの放置、③固定費の階段化、④在庫と回収サイトのズレ、⑤見えないコスト。

「売上をもう1割増やせば楽になる」と考えがちですが、穴の空いたバケツに水を足しても水位は上がりません。後述の数値例のとおり、穴を放置したまま増収すると、かえって現金が減ります

自社への問い:直近3年で売上は増えましたか。同じ期間で、営業利益額(本業の儲け)も同じ割合で増えましたか。

まず見るのは売上ではなく「3つの数字」

月次で追うべきは売上高ではなく粗利額・固定費・現金化までの日数の3つです。この3つで原因の8割は切り分けられます。

① 粗利額(売上総利益=売上から仕入・材料費・外注費などを引いた儲けの元)

「粗利率」より粗利額を見てください。率が同じでも額が増えていなければ、会社が使えるお金は増えていません。

② 固定費(売上が増減してもあまり変わらない費用)

人件費、家賃、リース料、減価償却費など。一度上げると下げにくいのが特徴です。

③ 現金化までの日数(仕入や支払をしてから、代金が入金されるまでの期間)

専門的にはCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)と呼び、「在庫日数+売掛金の回収日数-買掛金の支払日数」で計算します。

数値で見る:売上が1割増えて、利益と現金が減る例

以下は製造業の例ですが、仕入や外注のある業種なら同じ構造が起こります。

表1:A社(金属加工業・従業員35名)の前期と当期

項目前期当期増減
売上高300,000千円330,000千円+10.0%
変動費(仕入・材料・外注)180,000千円211,200千円+17.3%
変動費率60.0%64.0%+4.0pt
粗利額120,000千円118,800千円▲1.0%
固定費(増員・残業含む)105,000千円114,000千円+8.6%
営業利益15,000千円4,800千円▲68.0%
営業利益率5.0%1.5%▲3.5pt

売上は1割増えたのに営業利益は約3分の1です。原因は「仕入・材料費の上昇分を売価に転嫁できず変動費率が4ポイント悪化」+「増産対応の増員・残業で固定費が9,000千円増」の二重構造です。

さらに現金です。A社の現金化までの日数は「在庫45日+売掛60日-買掛30日=75日」。増収した30,000千円を回すのに必要な追加運転資金は30,000千円×75日÷365日≒6,164千円。営業利益4,800千円を上回るため、利益が出ているのに預金は減る。これが「黒字なのにお金がない」の正体です。

自社への問い:先月の粗利額を、金額で即答できますか。自社の現金化までの日数は何日ですか。

利益が消える5つの穴

穴① 売上構成の劣化(もうかっていない商品・取引先が増えている)

全社の粗利率が横ばいでも、中身が入れ替わっていることがあります。商品別・得意先別に粗利額を並べると、上位2割が粗利の7〜8割を稼ぎ、下位に赤字取引が混ざっている会社が少なくありません。製造業のA社では「単価は大きいが手間も多い量産品」の比重が増え、多品種少量の高粗利品が押し出されていました。

問い:商品別・得意先別の粗利額を、多い順に並べた資料はありますか。

穴② 値付けの放置(コスト上昇分を価格に転嫁できていない)

仕入原価・人件費・光熱費は上がったのに、価格は数年前のまま——というケースです。変動費率が1ポイント悪化すると、A社なら年間3,300千円の粗利が消えます。値上げは営業の問題ではなく原価計算の問題です。根拠となる原価データがないから交渉できないのです。

問い:主力商品・サービスの価格を最後に見直したのは、いつですか。

穴③ 固定費の階段化(人・拠点・設備が後戻りできない形で増えた)

固定費は階段状に一段上がり、売上が落ちても下がりません。増員、拠点、リース設備、システム保守料などです。「繁忙期対応で採用した人員が閑散期も同じ人数」は、階段が一段上がったサインです。

問い:直近2年で増えた固定費を、項目と金額で挙げられますか。

穴④ 在庫と回収サイトのズレ(利益はあるのに現金がない)

在庫(商品・材料・仕掛品)は決算書では資産ですが、実態は現金が形を変えて眠っている状態です。在庫日数が10日増えるだけで、A社では330,000千円×10日÷365日≒9,041千円の現金が寝ます。在庫を持たない業種でも、支払が入金より先に来る条件なら、成長するほど資金が先に出ます。

問い:在庫金額と入金・支払の条件を、取引先ごとに把握していますか。

穴⑤ 見えないコスト(手戻り・待ち時間・残業など数字に出ない損失)

やり直しや手戻り、待ち時間、伝達漏れによる二度手間。これらは仕入原価や人件費に溶け込み、原因別には見えません。製造業なら不良と段取り替え、建設業なら手待ちと再施工、サービス業なら差し戻しです。A社の規模では不良率1%の改善が営業利益率1ポイント近い改善になります。

問い:先月のやり直し・手戻りにかかった時間と金額は、記録されていますか。

利益が漏れる5つの穴 売上 粗利 穴①売上構成の劣化 穴②値付けの放置 穴③固定費の階段化 穴④在庫と回収のズレ 穴⑤見えないコスト = 消えた利益
図1:注ぐ量(売上)を増やす前に、穴(利益の漏れ)をふさぐ

自社はどの穴か——10問チェックリスト

以下にYESが多いほど、その穴が効いています。

表2:自社診断チェックリスト

#質問YES/NO該当する穴
1商品別・得意先別の粗利額を月次で見ていない
2売上上位の得意先が、粗利上位とは一致していない
3主力商品・サービスの価格を2年以上見直していない
4仕入・人件費の上昇分を、価格に反映できていない
5直近2年で人員・設備が増えたが、粗利額は同じ割合で増えていない
6閑散期でも残業や人員数がほとんど減らない
7在庫金額を月末に把握していない(棚卸は年1回)※在庫を持つ業種
8入金より先に支払が来る取引が主力にある
9やり直し・手戻りの時間や金額を集計していない
10手待ち・二度手間の時間を測ったことがない

判定の目安

YESの数状態優先アクション
0〜2個見える化ができている穴の該当箇所をピンポイントで改善
3〜5個一部が見えていない該当する穴から着手(後述の90日プラン)
6個以上管理会計が未整備まず「見える化」を最優先。個別改善は後

自社への問い:YESが最も多かったのは、①〜⑤のどの穴でしたか。

打ち手の優先順位:90日でやること/1年でやること

「見える化 → 止血 → 構造改革」の順番を崩さないことが結論です。順番を飛ばして値上げ交渉から入ると、根拠が示せず失注します。

最初の90日:見える化と止血

  1. 商品別・得意先別の粗利集計(1カ月分・Excelで十分)
  2. 13週間の資金繰り表を作成(週単位で入出金予定を並べ、現金の谷を見る)。日単位まで落とす方法は日繰り表の作り方で解説しています
  3. 赤字取引の特定(粗利率が全社平均の半分未満の取引を洗い出す)
  4. 在庫の棚卸を月次化(滞留在庫=1年動いていない在庫の金額を確定)

6〜12カ月:構造の手術

  1. 価格改定(原価データを根拠に対象を絞って交渉。全先一律は失敗しやすい)
  2. 取引の整理(撤退ではなく、まず「条件変更の交渉」から)
  3. 固定費の変動費化(繁忙期対応を外注・派遣に切り替える等)
  4. 設備・省力化投資(手戻りと待ち時間を減らす投資。補助金検討はここ)
90日から1年の打ち手の順番 時間・成果の積み上げ ③ 構造改革(6〜12カ月) 価格改定・固定費の変動費化・省力化投資 ② 止血(3〜6カ月) 赤字取引の特定・条件交渉 ① 見える化(0〜90日) 粗利集計・資金繰り表・棚卸の月次化 営業利益率 5% → 8%
図2:順番を崩さず「見える化 → 止血 → 構造改革」で積み上げる

自社への問い:上記8項目のうち、来月から着手できるものはどれですか。

制度・支援策の活用(2026年度時点)

制度は「穴をふさぐ打ち手が決まった後」に検討してください。逆にすると、補助金に合わせた不要な投資になります。

主な制度(2026年7月時点で確認できる情報)

  • 中小企業向け賃上げ促進税制:増えた給与総額の一部を法人税から差し引ける制度で、控除しきれない分を最大5年繰り越せる中小企業特例があります。2026年度(令和8年度)税制改正で大企業向け措置が廃止され、中小企業向けも控除率・適用期限の取扱いが変わっています。(出典:中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制」、経済産業省「令和8年度経済産業関係 税制改正について」)
  • 中小企業省力化投資補助金:省力化投資を支援する制度で、「カタログ注文型」と個社の現場に合わせた「一般型」があります。一般型は2026年6月下旬に第7回公募開始、7月中の申請受付が予定されていました。申請にはGビズIDプライム(取得に数週間)が必要です。(出典:中小企業庁、中小企業基盤整備機構)
  • ものづくり補助金:第23次公募は2026年2月6日に要領公開、締切5月8日、採択公表は8月上旬頃の予定。2026年度以降は新事業進出補助金と統合し「新事業進出・ものづくり補助金」へ再編される見込みです。(出典:中小企業庁)
⚠️ 公募要領・補助率・上限額・要件は年度および公募回ごとに変わります。申請時は中小企業庁および各事務局が公表する最新の公募要領を必ずご確認ください
⚠️ 税額控除の適用可否や、価格交渉・契約変更に伴う法的論点は個別事情で結論が変わります。顧問税理士・弁護士等の専門家に必ずご確認のうえ判断してください。本コラムは一般的な情報提供です。

自社への問い:いま検討している投資は、5つの穴のどれをふさぐためのものですか。

まとめ|利益が残る会社は「売上の質」を管理している

  • 原因は売上不足ではなく、①売上構成の劣化 ②値付けの放置 ③固定費の階段化 ④在庫と回収サイトのズレ ⑤見えないコスト の5つの穴です。
  • 追うべき数字は売上高ではなく、粗利額・固定費・現金化までの日数の3つです。
  • 打ち手の順番は「見える化 → 止血 → 構造改革」。この順番だけは崩さないでください。

まずは自社の数字で切り分けてみませんか

どの穴が効いているかは、決算書と月次試算表を並べればかなりの精度で特定できます。ただし「自社の数字を自社以外の視点で見る」作業のため、社内だけでは結論が出にくいものです。

当事務所では中小企業診断士による初回無料相談を承っております。決算書2期分をお持ちいただければ、その場で「5つの穴のどこから利益が漏れているか」の見立てと90日でできる打ち手をお伝えします。現状の整理だけでも、お気軽にご相談ください。

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