毎月きちんと試算表を受け取り、目を通している。それでも「気づいたときには資金が苦しい」。理由は試算表が不正確だからではなく、試算表には未来の資金と個別の採算が構造上載らないからです。本コラムでは、①試算表に載る情報と載らない情報、②防げない5つの理由、③黒字なのに現金が減る数値例、④10問チェックリスト、⑤足すべき3つの帳票をお伝えします。参考になれば幸いです。

試算表が悪いのではなく、試算表には「未来」と「内訳」が載らない

結論から申し上げます。試算表(月次試算表)は日々の記帳を科目ごとに集計した過去の記録で、いわば決算書の途中経過です。「先月までに何が起きたか」には答えますが、「来月以降に何が起きるか」には答えません。答え合わせの道具であって、予報の道具ではないのです。

表1:試算表に載る情報/載らない情報

試算表に載る試算表に載らない
先月までの売上・粗利・経費・利益来月以降の入金・支払の予定
月末時点の預金・売掛金・在庫・借入の残高借入元本の返済額(費用ではなく損益に出ない)
全社合計の損益商品別・得意先別・部門別の採算
金額として記録された数字賞与・納税・設備投資が出ていく時期、受注残

右側が資金ショートの原因になる情報です。つまり原因は、試算表の外側に置かれています

試算表・資金繰り表・予実管理の役割の違い フロントガラス 資金繰り表(未来) これから先の入出金予定 試算表(過去) ルームミラー カーナビ 予実管理(進路の確認) 3つとも必要。役割が違うだけです
図1:試算表を否定するのではなく、役割を分けて使う

自社への問い:先月の試算表を見て、「来月末の預金は足りる」と判断できましたか。

試算表では防げない5つの理由

理由① タイムラグ(届いた時点で2カ月前の話)

6月分の試算表が届くのは7月下旬。目にした瞬間、それは2カ月近く前の記録です。仕入価格の上昇に気づくのが2カ月後では、打ち手が限られます。

問い:試算表は毎月、何日ごろ手元に届いていますか。

理由② 現金の動きが映らない

会計は発生主義(現金の授受ではなく取引が発生した時点で計上する考え方)です。3月の売上1,000万円は3月の利益でも、入金は5月末かもしれません。

決定的なのは借入元本の返済です。費用ではないため損益計算書に登場せず、毎月150万円返済していても試算表の利益はそれを引く前の数字です。

問い:年間の借入元本返済額を、金額で即答できますか。

理由③ 未来の予定が入っていない

賞与、法人税・消費税の納付、設備の支払は特定の月に集中しますが、試算表は予定表ではないためこの山が事前に見えません。「毎月黒字なのに7月と12月だけ苦しい」会社は、山を管理していないだけです。

問い:今後6カ月で、支出が通常月より大きくなる月はどこですか。

理由④ 全社合計しか見えない

粗利率20%は、35%と5%が混ざった平均にすぎません。全社が横ばいでも中身が低採算品に入れ替わっていれば、いずれ利益は落ちます。この構造は売上はあるのに利益が残らない5つの理由で詳しく解説しています。

問い:粗利率が全社平均の半分未満の取引先を、名前で挙げられますか。

理由⑤ 期中の数字が概算

月次で棚卸をしなければ在庫は概算値で、在庫がずれれば粗利もずれます。減価償却費や賞与を決算時に一括計上していれば、期中の利益は実態より良く見えています。「毎月黒字なのに決算は赤字」の典型です。

問い:月次の在庫金額は、実地の棚卸に基づいていますか。

数値で見る:試算表は黒字、現金は年1,300万円減る

表2:B社(卸売業・年商5億円・従業員22名)の月次試算表(6月分)

項目金額
売上高42,000千円
売上総利益(粗利)8,400千円(20.0%)
販売費及び一般管理費7,300千円
営業利益1,100千円

毎月100万円前後の黒字で、試算表だけなら「順調」です。しかし現金で見ると景色が変わります。

表3:利益から現金への橋渡し(年間)

項目金額残高
税引後利益8,000千円8,000千円
+減価償却費(現金が出ない費用)5,000千円13,000千円←返済原資
▲借入元本の返済(残高130,000千円)▲18,000千円▲5,000千円
▲運転資金の増加(売掛金・在庫の増加)▲8,200千円▲13,200千円
利益から現金への橋渡し(滝グラフ) 0 税引後利益 +8,000 +減価償却費 +5,000 ▲元本返済 ▲18,000 ▲運転資金増 ▲8,200 現金の増減 ▲13,200千円 試算表が見せるのは、左端の「税引後利益」1本だけ
図2:利益は黒字でも、返済と運転資金の増加で現金は年1,320万円減る

「税引後利益+減価償却費」が返済原資(借入返済に使える現金の目安)です。B社は13,000千円しか作れないのに18,000千円返済しており、それだけで年5,000千円不足します。

加えて増収分の立替もあります。現金化までの日数は「在庫30日+売掛75日-買掛45日=60日」。売上が50,000千円増えれば約8,200千円が先に出ます。合計で年約13,200千円、月110万円の現金が減り続けますが、この表は試算表を12枚並べても作れません

自社への問い:「税引後利益+減価償却費」と年間の元本返済額、どちらが大きいですか。

自社の試算表依存度——10問チェックリスト

表4:チェックリスト

#質問YES/NO該当する理由
1試算表が届くのは翌月末より後である
2月中に売上・粗利の速報値を見ていない
3年間の借入元本返済額を即答できない
4「利益は出ているのに預金が増えない」と感じたことがある
5今後6カ月の入金・支払予定の一覧がない
6賞与や納税の資金を直前に確認している
7商品別・得意先別の粗利額を月次で見ていない
8部門別・事業別の損益が分かれていない
9月次の棚卸をしていない(棚卸は年1回)
10減価償却費や賞与を決算時に一括計上している
YESの数状態優先アクション
0〜2個数値管理ができている該当箇所をピンポイントで補強
3〜5個一部が見えていない該当する理由に対応する帳票から着手
6個以上試算表への依存が過大資金繰り表の作成を最優先。他は後

自社への問い:YESが最も多かったのは、①〜⑤のどの理由でしたか。

試算表に足すべき3つの帳票

結論は、帳票を3枚足せば防げるということです。システムの入れ替えは不要で、Excelで十分です。

① 13週間資金繰り表

今週から13週先までの入金・支払予定を週単位で並べ、週末の預金残高を出します。3カ月あれば融資相談も条件交渉も間に合います。中小企業庁が「資金予定表かんたん作成ツール」(Excel)を無償公開しています(出典:中小企業庁「早期経営改善計画策定支援」、2026年7月時点)

② 商品別・得意先別の粗利一覧

粗利額の多い順に並べるだけです。上位2割が粗利の7〜8割を稼ぎ、下位に赤字取引が混じる会社が多数。1カ月分で構いません。

③ 予実管理表

年間計画を月別に割り、差異を「売上・粗利率・固定費」の3行で説明します。差異が説明できれば、翌月の打ち手が決まります。

表5:3帳票の運用イメージ

帳票頻度主担当使う場面
13週間資金繰り表毎週経理+社長支払判断・銀行相談
商品別・得意先別粗利月1回営業+経理価格改定・取引の見直し
予実管理表月1回社長+幹部月次会議での意思決定

自社への問い:この3枚のうち、いま社内にあるのはどれですか。

税理士との役割分担を整理する

結論として、これは税理士の問題ではなく役割分担の問題です。本来業務は記帳・税務申告であり、「来月の資金をどうするか」の意思決定支援は契約範囲外であることが一般的です。依頼するなら期限と様式を数字で合意してください。「早くしてほしい」ではなく「翌月15日までに試算表、20日までに部門別損益を」と伝えます。

自社への問い:締めが遅れる原因は、会計事務所側と自社側のどちらですか。

制度・支援策の活用(2026年度時点)

  • 早期経営改善計画策定支援(Vアップ事業):認定経営革新等支援機関の支援で資金繰り計画等を策定する費用の2/3が補助。通常枠は計画策定支援が上限50万円、伴走支援が上限30万円。手引き等は2026年3月31日・5月1日に改訂。(出典:中小企業庁「早期経営改善計画策定支援」)
  • 中小企業活性化協議会:都道府県ごとの公的窓口。より本格的な改善が必要な場合の経営改善計画策定支援(405事業)を含め、自社に合う制度の相談先です。(出典:中小企業庁、中小企業基盤整備機構)
  • デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金):会計・受発注ソフトの導入費用を補助。月次早期化に使えます。2026年から名称変更。GビズIDプライム(取得に数週間)等が必要。(出典:中小企業庁および同事業事務局)
⚠️ 補助率・上限額・要件は年度および公募回ごとに変わります。中小企業庁および各事務局の最新の手引き・公募要領を必ずご確認ください
⚠️ 会計処理や税額計算、契約変更に伴う法的論点は個別事情で結論が変わります。顧問税理士・弁護士等の専門家にご確認のうえ判断してください。本コラムは一般的な情報提供です。

自社への問い:検討中の支援策は、5つの理由のどれを埋めるものですか。

まとめ|試算表は答え合わせ、経営判断は予測で行う

  • 試算表は過去の集計表で、借入元本の返済・未来の入出金予定・個別の採算は構造上載りません。
  • 「税引後利益+減価償却費」が返済原資。この額と年間元本返済額を比べるのが最初の1歩です。
  • 足すのは13週間資金繰り表・商品別得意先別粗利一覧・予実管理表の3枚。Excelで十分です。

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